ニートになる理由は人様々だが、ニート王ことオレがニートになった理由を話そう。
アレは大学時代の事だった。
特にやりたい事があって入った大学ではなく、ただ大卒という肩書きが欲しかったから入学しただけだ。
まぁ、それはもちろんウソで、本当は働きたくなかった上に両親も大学を出る事を進めてくれたから甘えただけだ。
それでも当時のオレは大学を卒業したら、普通にサラリーマンになり働く気持ちではいた。
しかし現実は無常な物でオレは現在ニートである。
オレがニートになった理由は大学4年時の就職活動にあった。
それまで大学生活を適当にダラダラと過ごし、必要な単位を取得して日々の生活を送っていた。
大学は地方のまったく有名では無い3流大学だっただけに今思えばある意味当然の結末だったのかもしれない。
オレは就職活動を普通に行っていた。
受けた会社はだいたい50社を超える。
職種も別に絞っていた訳でもなく、家電量販店、スーパー、ホームセンター、情報系など色々と受けた。
しかし、オレは全ての会社からお祈りをされて落とされた。
理由は今思っても確信にいたる物はないが、単純にオレの事が”使えないヤツ”と思われたのだろう。
ハッキリいって見た目はそこまで良い訳でもないし、ハキハキと滑舌良く喋る方でもない。
なので、オレ以上のスペックのヤツが会社を受けにくればそっちを採用するのは必然の理だろう。
そうしてニート王サトルは、内定を得られないままに大学を卒業した。
この時のオレは正直焦りと不安が心を支配していた。
理由は簡単で、他の人と違う人生を歩む事になったせいでどうすれば良いか良く分からなくなったからだ。
しかしこの時、半分はまだ働かなくていいという安堵の気持ちもあった。
けれどオレの気持ちとは関係なく親からのプレッシャーは想像以上の物があった。
J( ‘ー`)し「サトル……これからどうするの? ちゃんと仕事は探してるの?」
「50社以上受けて正社員はダメだったんだ、バイトか派遣でも探してみるよ」
J( ‘ー`)し「……まぁ、アルバイトから正社員ていう道もあるからね、頑張りなサトル」
そしてオレはとりあえず、派遣に登録しに行き、工場で働く事になった。
派遣は正社員の採用とは違い、適当に話したり書類記入をしただけで仕事にありつける事ができた。
その事実にオレは少し安堵し、不安と期待を持って派遣の工場で働く事にした。
しかしそれがオレの精神を崩壊させる事になるとは、この時思ってもいなかった。
ー派遣工場1日目ー
工場に到着したオレは、他にも派遣の人が何人もいて少し安心した。
メンバーは主婦の人から30~40代ぐらいのおっさんが主で少ないながらも20代の人もいた。
主婦の人はまぁいいが、それ以外のメンバーは悲壮感というか疲れた感じが今思えばヤバかったが、その時のオレはそこまで気がまわっていなかった。
工場の人「それじゃぁキミにはこの仕事をやってもらう、手本を見せるから見ててね、コレをこうするんだ」
ちなみにその時の仕事の説明は1分ぐらいで終わった。
そしてオレは説明後すぐに仕事を行って、工場の人は大丈夫そうだと判断したら自分の持ち場に戻っていった。
割り振られた仕事はとても簡単な物で、ハッキリいうと低学年の小学生でも出来る物だった。
具体的にはラインから流れてくる物を手で掴んで、別の機械に移動させるだけだ。
オレは仕事内容が自分でも出来る物だった事に安堵したが、すぐに問題点に気が付いた。
(……この仕事を今から8時間……やる…だと?)
流れてくる物を移動するだけ、とても単純で簡単だが常人の精神ではとても耐えられる仕事ではなかった。
これに関してはさすがのニート王サトルでも精神が持たない。
いやむしろニート王だから堪え性が人よりも無く、かなりの苦痛を伴っていた。
それでもなんとか派遣1日目の仕事を終え、帰宅したのだった。
「……まさか労働がこんなに辛いとは思わなかった」
社会人のほとんどが普通に毎日働いているから、大変といってもたかが知れているとどこかで思っていた。
しかし、ただの派遣の単純労働がこんなに辛いなら他の仕事はどれだけ辛いのだろう。
それとも派遣の単純労働だから辛いのだろうか、オレはほとんどバイト経験が無いから判断が出来ない。
それでもオレはこの仕事をしばらく続けてみよう、辛いのは最初だけっていう話もあるし続けていく内に慣れていくだろう。
ー派遣3ヶ月経過ー
オレはなんだかんでこの仕事を3ヶ月ぐらい続けている。
初日よりは大変さを感じていない……というのはウソである。
たしかにその工場での環境には慣れたが、仕事はむしろ飽きも追加されて肉体的にも辛くなっていた。
その時ぐらいから、仕事に行くのが嫌すぎて毎朝口から嘔吐をしていた。
今思えばオレの精神と体が拒否反応を示してそういう状態になっていたのだろう。
ー派遣7ヶ月経過ー
この仕事を続けて7ヶ月が経過した頃、体調と肉体的疲労がさらに悪化していた。
はっきりいってもう働きたくない。
7ヶ月何日目か覚えていないが、オレは仕事をバックレた。
家族に出会わない様に家から少し離れた公園に座り暇を潰す。
しばらくしてから携帯が鳴ったがどこからの電話かも確認せず無視した。
オレは公園で独り言を言う。
「……あの仕事はねぇよ、そもそも機械のスピードに人間が合わせないといけねぇじゃん」
「機械が人間様に合わせろよ、これじゃ機械に人間が使われてる様なもんじゃねぇか……」
「そもそもさ、あの仕事なんなの? ラインから流れてくる物を別の機械に移動ってさ、それさ……間繋げろよ」
「絶対その間を処理する機械存在するだろ……」
「機械がやればその仕事いらねーじゃん……、オレの仕事いらねーじゃん」
おそらくだが、その設備投資をするよりも人を雇った方が安くすむのだろう。
工業用の機械は想像以上に高額だったりするらしい。
もしくはずっと続ける業務ではなく、一時的なものだから設備投資しないのかもしれない。
まぁ原因は分からないがとりあえず機械よりも人を使っている。
良いのか悪いのか分からないが、そのおかげで”仕事”が存在して給料を稼げるのだ。
「……ここにいても暇だし、どうせバックレたのすぐバレるだろうから家に帰ろう」
そうしてオレは家に帰宅した。
そこには予想していた通りカーチャンが待ち受けていた。
J( ‘ー`)し「サトル! あんた派遣会社の人から朝電話あったのよ! どこいってたの!?」
「……仕事バックレて公園にいた」
J( ‘ー`)し「なにやってるの! 今からでもいいから電話して謝りなさい!そうすればまだ仕事できるから!」
「カーチャン……悪いけどオレもうあの仕事辞めるよ、ていうかもうオレ働かない……」
J( ‘ー`)し「何バカな事いってるの!働かないと生きていけないのよ!?将来どうするの!?」
「……知らないよそんな事、カーチャンとトーチャンが養えばいいじゃん、オレは絶対にもう働かないよ」
そういってオレは自室に向かって歩く。
J( ‘ー`)し「待ちなさいサトル! まだ話は終わってないわよ!」
バタンッ!
オレはカーチャンを無視して自室の扉を閉めた。
そして決意した。
「オレは絶対に働かない」
「ニートになるんだ……」
「そう……ニート王にオレはなるんだ!!」
……………
…………
………
……
…
人がニートになる理由は様々だ。
不登校、就職活動の失敗、リストラ、仕事が嫌になった、生きる理由を見失った。
本当に様々だ。
オレの場合は、自分が今まで積み上げてきた物が無かったせいかもしれない。
なんの武器も磨かず、努力もせず、やりたい事が無かったせいかもしれない。
しかし、今更どうしようもないのだ。
いや、なんとかなったとしてももう気持ちがついてこない。
やる気がでない。
そして……働くのが嫌だ。
働くのが怖い……。
どうしようもなく怖いのだ。
怖い物、嫌な物から逃げてなにが悪い……。
オレは逃げる、逃げ続ける。
逃げて逃げて逃げ抜いて……。
そして最後の時が来ても働かないのだ。